この記事の対象:公務員・行政書士・宅建・司法書士・土地家屋調査士


こちらは、LEC高松本校申込者にお届けしている「TKM通信」のコンテンツです。

TKM通信 ご案内
https://lec-tkm.blogspot.com/2023/10/lectkm.html


動画



例題

必ず答えを出してから先に進んでください。

例題1
無効及び取消しに関するア~オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。(国般2022)

ア 無効な行為は,追認によっても,その効力を生じない。ただし,当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは,遡及的に有効となる。

イ 無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は,給付を受けた当時その行為が無効であることを知らなかったときは,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。

ウ 無効は,取消しとは異なり,意思表示を要せず,最初から当然に無効であり,当事者に限らず誰でも無効の主張ができるものであるから,無効な行為は,強行規定違反又は公序良俗違反の行為に限られる。

エ 取り消すことができる行為の追認は,原則として,取消しの原因となっていた状況が消滅し,かつ,取消権を有することを知った後にしなければ,その効力を生じない。

オ 追認をすることができる時以後に,取り消すことができる行為について取消権者から履行の請求があった場合は,取消権者が異議をとどめたときを除き,追認をしたものとみなされる。

1 ア,ウ
2 イ,エ
3 エ,オ
4 ア,ウ,オ
5 イ,エ,オ


ポイント

あるバレンタイデー、A君憧れのB子さんが近づいてきて、うつむきながら「これ食べて」とチョコを差し出しました。

もちろんA君はありがたく受け取り、家で思い出にひたりながらもらったチョコを食べました。

ところが次の日、B子さんが怒った顔をしてA君の元へ。チョコを返してくれと言います。

チョコはA君ではなくC君にあげるつもりだったけど、緊張のあまり間違えてA君に差し出してしまったと。

さて、A君はチョコ(相当額)を返還する必要があるかです。


Xから



不当利得による処理

もともと、この手の話は不当利得の問題でした。

(不当利得の返還義務)
第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

(悪意の受益者の返還義務等)
第704条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。


B子さんの贈与は錯誤に基づき、取り消されましたので、A君は「法律上の原因なく」利益を受けたことになり、善意の受益者(703条)として現存利益の返還義務が発生します。

B子さんが人違いをしていることを知っていたなら、現存利益でなく全額の返還義務となります。

それが、121条の2の規定により別の考え方で処理されることとなりました。


原状回復義務による処理

(原状回復の義務)
121条の2
1 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。


121条の2によっても、贈与のような無償行為については、不当利得と同じ処理がされます。

つまり、無効原因につき善意なら現存利益、悪意なら全額返還です(同条2項)。

新しいのは1項で、売買のような有償行為の場合、不当利得とは全く異なる考え方、つまり善意だろうが悪意だろうが全額返還で処理されます。

これは、売買は双務契約であるため、受け取ったものはきちんと全額返還するべきと考えるのが通常だからです。

「使った者勝ち」はおかしいですよね。

なお、3項は制限行為者(及び意思無能力者)について、有償でも現存利益返還に制限していますが、これは旧来の考え方(制限能力者保護)と同じです。


Xの解答

例題の解答

例題1
答えは5です。

イが121条2項です。。

エは、たとえば未成年者が追認できるのは成年になってからと考えると当然のことだとわかります。

オは、取消権者が履行の請求をするということは取り消さないという意思表示と同視できるということです。