この記事の対象:公務員・行政書士・宅建・司法書士・土地家屋調査士


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動画



例題

必ず答えを出してから先に進んでください。

例題1
Aは、BにCから贈与を受けた動産甲を売却する旨の契約(以下「本件契約」という。)をBと締結したが、引渡し期日が過ぎても動産甲の引渡しは行われていない。この場合についての次の記述のうち、民法の規定に照らし、正しいものはどれか。(行政書士2022)

1 本件契約に「Cが亡くなった後に引き渡す」旨が定められていた場合、Cの死亡後にBから履行請求があったとしても、Aが実際にCの死亡を知るまではAの履行遅滞の責任は生じない。

2 動産甲が、契約締結前に生じた自然災害により滅失していたために引渡しが不能である場合、本件契約は、その成立の時に不能であるから、Aは、Bに履行の不能によって生じた損害を賠償する責任を負わない。

3 動産甲の引渡しについて、Aが履行補助者であるDを用いた場合、Dの過失により甲が滅失し引渡しができないときには、Aに当然に債務不履行責任が認められる。

4 動産甲が本件契約締結後引渡しまでの間にA・B双方責めに帰すことができない事由によって滅失したときは、Aの引渡し債務は不能により消滅するが、Bの代金債務は消滅しないから、Bは、Aからの代金支払請求に応じなければならない。

5 Aが本件契約に基づき動産甲をBのもとに持参して引き渡そうとしたが、Bがその受領を拒んだ場合、その後にA・B双方の責めに帰すことができない事由によって甲が滅失したときは、Bは、本件契約の解除をすることも、Aからの代金支払請求を拒絶することもできない。


Xから



ポイント

債務不履行は債権総論で、危険負担は契約総論で学習するところですが、実際の取引では連続してとらえられることが多いものと思います。

債務不履行を本土とするなら、危険負担は同じ国ながら飛び地のようなものです。

今回の副題のベルリン大空輸は、第二次世界大戦後に、西ドイツから飛び地となった西ベルリンがソ連に封鎖されたため、アメリカ等が大規模な空輸を行って西ベルリンに物資を届けた作戦です。

飛び地だけどつながっている、この関係を明らかにすることで理解が深まるものと考えて取り上げました。


債務不履行と損害賠償・解除

大まかに言って、債務不履行があると損害賠償や解除ができるのですが、現在の民法では両者は全く別の制度と考えられています。

簡単にいうと「債務者に落ち度(帰責事由)があるから許される」のが損害賠償請求、「債務者に落ち度(帰責事由)がなくても許される」のが解除です。

債務不履行による損害賠償請求の条文は415条1項です。

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。


解除についての542条1項1号も見ておきます。

次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。


表にすると以下のようになります。

債務者
(売主)
責任
債権者
(買主)
責任
不可抗力
賠償請求
415Ⅰ本
412の2Ⅱ

415Ⅰ但

415Ⅰ但
解除
542Ⅰ①

543

542Ⅰ①



危険負担

売買の目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失した場合、買主はどのような請求ができ、代金支払義務はどうなるか、というのが危険負担の問題です。

条文は、567条です。1項が引渡後の危険負担、2項が受領遅滞の場合の危険負担です。

1 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。


趣旨としては、引渡しにより目的物が買主の支配下に入ったら、目的物滅失のリスクは基本的に買主が負うということです。同様に、弁済提供をして売主がやるべきことをやったら、目的物を受け取らず受領遅滞となってしまったら目的物滅失のリスクは基本的に買主が負うべきということになります。

表にします。

不可抗力による目的物滅失による危険負担
引渡前 or 弁済提供前引渡後 or 受領遅滞中
賠償請求
415Ⅰ但

567ⅡⅠ
解除
542Ⅰ①

567ⅡⅠ
追完請求
567ⅡⅠ
減額請求
567ⅡⅠ
買主の
代金支払
義務

536Ⅰ

567ⅡⅠ


引渡し前の滅失であれば、買主は契約解除ができ、代金も支払わないでよかったのが、引渡しを受けると契約解除できず、代金支払いも残ることがわかります。


飛び地に空輸する

ここまでが通常のテキストの知識ですが、ここではこの2つの制度をつなぎ合わせてみます。

引渡前 or 弁済提供前
債務不履行
引渡後 or 受領遅滞中
危険負担
債務者
(売主)
責任
債権者
(買主)
責任
不可抗力債務者
(売主)
責任
不可抗力
賠償請求
415Ⅰ本
412の2Ⅱ

415Ⅰ但

415Ⅰ但

567Ⅰ

567ⅡⅠ
解除
542Ⅰ①

543

542Ⅰ①

567Ⅰ

567ⅡⅠ
追完請求
567Ⅰ

567ⅡⅠ
減額請求
567Ⅰ

567ⅡⅠ
買主の
代金支払
義務

(解除により消滅)

536Ⅱ

536Ⅰ

(解除により消滅)

567ⅡⅠ


並べてみると、面白いことがわかります。

まず、債務者責任の列は、債務不履行と危険負担で似通っています。すなわち、債務者(売主)の責任で目的物が滅失して引き渡せなくなった場合、買主は損害賠償請求と解除ができ、反対債務である代金支払債務を免れます(追完と減額は無視します)。

不可抗力については、債務不履行と危険負担で解除ができるできないで異なります。しかし、実は、債務不履行の債権者責任と危険負担の不可抗力が似通っていることに注目してください。

危険負担の不可抗力というのは、目的物を引き渡されたり、弁済提供されたのに受け取らなかったりして(受領遅滞)、リスクが買主(債権者)に移った状態ですので、実質的には「債権者責任」なのです。だから、危険負担の不可抗力滅失は、債務不履行の債権者責任滅失とパラレルになります。

危険負担には2列しかありませんが、実は3列あって、ほんとは真ん中の列にあるべきものがスライドしているイメージでとらえてみるとわかりやすいのではないでしょうか。


Xの解答



例題の解答

例題1
答えは5です。

2は、原始的不能の場合に損害賠償請求できるかですが、可能です。ただし、債務者に帰責事由が必要です。

3は、今回のテーマとは異なりますが、テキストにあまり細かく書いていないところです。事例として、絵を描いて債権者に届けるという債務を考えますと、宅配業者が履行補助者になります。

さて、絵をきちんと描いて納期に間に合うように宅配業者も手配した、しかしその宅配業者がバナナに足を滑らせたためせっかくの絵がめちゃめちゃになって納品できなかったという場合に、債務不履行責任が発生するでしょうか?

この場合は、債務者に帰責事由のない履行不能として処理されることになると思われます。

4については、3で考えた宅配便業者の例で考えます。この場合、絵を受け取れなかった債権者は解除ができますので、代金を支払わなくてもいいということになります。解除を使わなくても、536条1項が明文で代金債務を拒絶することができることを定めています。

5は、受領遅滞で危険負担が債権者に転換した後の目的物滅失なので、本日学習した「不可抗力なのに債権者責任」というベルリン大空輸の問題ですね。