この記事の対象:公務員・行政書士・宅建・司法書士・土地家屋調査士


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例題

必ず答えを出してから先に進んでください。

例題1
次の対話は、弁済に関する教授と学生との対話である。教授の質問に対する次のアからオまでの学生の解答のうち、正しいものの組合せはどれか。(司法書士2021)

教授:第三者による弁済について検討してみましょう。弁済をするについて正当な利益を有する第三者は、債権者の意思に反しても、弁済をすることはできますか。問題となっている債務が、その性質上第三者による弁済を許すものであり、当事者が第三者による弁済を禁止し、又は制限する旨の意思表示をしていないことを前提に考えてください。
学生:ア  弁済をするについて正当な利益を有する第三者は、債権者の意思に反しても、弁済をすることができます。
教授:では、弁済の方法について考えてみましょう。債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによって弁済をすることが許されている場合に、その方法によって弁済の効力が生ずるのは、どの時点ですか。
学生:イ  債権者が払込みがあった口座から金銭の払戻しを現実に受けた時点です。
教授:次に、代物弁済について考えてみましょう。代物弁済の契約が締結された場合には、代物弁済の契約で定められた給付が現実になくても、弁済と同一の効力は生じますか。
学生:ウ  代物弁済の契約が締結されれば、代物弁済の契約で定められた給付が現実になくても、弁済と同一の効力は生じます。
教授:弁済の時間について考えてみましょう。弁済をし、又は弁済の請求をすることができる取引時間の定めがあると認められるのは、どのような場合ですか。
学生:エ  債権者と債務者の合意によって取引時間を定めた場合に限り、弁済をし、又は弁済の請求をすることができる取引時間の定めがあると認められます。合意がないのに、このような取引時間の定めがあると認められることはありません。
教授:最後に、弁済の充当について検討しましょう。債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合に、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、その充当すべき債務を指定することができますか。いずれの債務も元本のみしか存在しないことと、弁済をする者と受領する者の間にその充当の順序に関する合意がないことを前提に考えてください。
学生:オ  弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができます。

1 .アウ
2 .アオ
3 .イエ
4 .イオ
5 .ウエ



Xから



ポイント

債権は「人に対する権利」ですが、債務者以外の第三者も弁済して債権を消滅させることができます。

第三者弁済についての各種の試験問題は、これまでのところそれほど難しいものは出題されていません。


しかし、正当利益の有無と当事者の意思という2つの要因があり、頭が整理されていないと間違えやすい内容かもしれません。

今回は、その2つの要因を整理することによって、第三者弁済の構造を明らかにします。


第三者弁済の基本的な考え方


第三者弁済が許されるかどうかについては、第三者の立場と当事者の立場を天秤にかけることで判断します。

第三者がわざわざ弁済するということは通常それなりの利害関係があるはずで、これを正当利益といいます。

一方、当事者の方も第三者の弁済を許したくないという心情があるかもしれません。

まずは「第三者の正当利益」と「当事者の意思」の2つの対立軸を思い浮かべてください。


大まかな理解

第三者弁済は、民法474条に規定があります。

1 債務の弁済は、第三者もすることができる。
2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
3 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
4 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。


この条文を図式化しました。


まず、原則は第三者でも弁済が可能です。第三者に正当利益があろうがなかろうが、第三者弁済は可能です

しかし、当事者双方が反対の特約をした場合は、第三者弁済は不可です。債務の性質が許さないとき、つまり画家が絵を描くような債務も、第三者弁済はできません。

問題は、当事者の一方の反対がある場合です。

第三者に正当利益があれば、当事者の一方の反対があっても、第三者弁済ができます。

第三者に正当利益がなければ、基本的には、第三者弁済は許されません。


マニアックな条文知識

以上の知識でだいたいの問題は大丈夫ですが、記憶定着のため、もう少しマニアックな論点を取り上げます。

第三者に正当利益がなく、当事者の一方の意思に反するのに、第三者弁済が許される場合が2つあります。

その1つは、「債務者の意思に反することを債権者が知らなかったとき」です。債務者が第三者に弁済してほしくなかったら、そのことを債権者に伝えておけということですね。これを「そんなの知るかよ例外」と呼びます。

もう1つは、「債権者の意思に反しているが、第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたとき」です。これは、表面的には第三者弁済ですが、本質は債務者自身による弁済であり、債権者がこれに反対するのはどうかと思われます。建前と本音の裏表があるので、嫌よ嫌よは好きのうちで「いやよいやよ例外」と呼びます。

Xの問題のように、正当利益と当事者意思以外に当事者の善意・悪意、第三者の無過失を引っかけとして出題される可能性があります。

その場合は、第三者弁済は基本的には正当利益と当事者意思の対立軸から答えが導けるはずなので、とりあえず内心の問題は無視して考えます。

それで答えが出ない場合は、なかなかここまで思い出すのは難しいかもしれませんが、なんか例外もあったよなーくらい思い浮かべていただければと思います。


Xの解答



例題の解答

例題1
アとオが正しく、答えは2です。

「弁済をするについて正当な利益を有する第三者は、債権者の意思に反しても、弁済をすることができる」。超基本事項です。