この記事の対象:公務員・行政書士・宅建・司法書士・土地家屋調査士


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例題

必ず答えを出してから先に進んでください。

例題1
物権的請求権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。(行政書士2021)

1 A所有の甲土地上に権原なくB所有の登記済みの乙建物が存在し、Bが乙建物をCに譲渡した後も建物登記をB名義のままとしていた場合において、その登記がBの意思に基づいてされていたときは、Bは、Aに対して乙建物の収去および甲土地の明渡しの義務を免れない。

2 D所有の丙土地上に権原なくE所有の未登記の丁建物が存在し、Eが丁建物を未登記のままFに譲渡した場合、Eは、Dに対して丁建物の収去および丙土地の明渡しの義務を負わない。

3 工場抵当法により工場に属する建物とともに抵当権の目的とされた動産が、抵当権者に無断で同建物から搬出された場合には、第三者が即時取得しない限り、抵当権者は、目的動産をもとの備付場所である工場に戻すことを請求することができる。

4 抵当権設定登記後に設定者が抵当不動産を他人に賃貸した場合において、その賃借権の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、賃借人の占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、賃借人に対して、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる。

5 動産売買につき売買代金を担保するために所有権留保がされた場合において、当該動産が第三者の土地上に存在してその土地所有権を侵害しているときは、留保所有権者は、被担保債権の弁済期到来の前後を問わず、所有者として当該動産を撤去する義務を免れない。


Xから



ポイント

所有権をはじめとする物権には、物権的請求権という強い効力が認められています。

①物権的返還請求権、②物権的妨害排除請求権、③物権的妨害予防請求権の3つでしたね。

自分の土地に勝手に建物が建てられたという場合には、建物を壊して、土地を明け渡せ(建物収去土地明渡請求 物権的返還請求権)が認められます。

では、例えば土地を不法占拠されて無断で建物を建てられたとして、誰を訴えればいいのでしょうか。

登記名義人でしょうか? 登記は法務局に行けばすぐに分かるので便利ですが、しかし実は名義人といっても名ばかりの人もいます。「名義は自分だけど私の建物ではないですよ」などと言われるかもしれません。

権利があるとしても、誰を訴えるかはっきりさせる必要がある。これが物権的請求権の相手方の問題です。


建物収去・土地明渡請求の相手方

物権的請求権の相手方は、現に物権を侵害している者又は侵害しようとしている者です。

無断で建物を建てられた上の例においては、無断で建てた建物の所有者ということになります。

そして、この「所有者」とは、実質的な所有者ということです。

実質的な所有者であれば、登記がなくても物権的請求権の相手方となりえます。

逆に言うと、登記があっても名ばかり登記名義人であれば、その人に対して物権的請求権を行使することはできません。


自業自得の法則

しかし、登記名義だけあって実質的所有権のない名ばかり登記名義人なのに、物権的請求権の相手方として矢面に立たなければならない場合があります。

それは、過去の所有者が自ら自己名義の登記をし、他の人に所有権移転したのに登記名義を移していない場合です。

これは、物権の得喪に関する民法177条の裏面です。

177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。


権利者であることを第三者に主張するためには登記が必要ですが、逆に、権利者でないとして責任を免れるためには、登記を移転又は抹消する必要があるということです。

登記名義を移さない元所有者は、自業自得として、物権的請求権の相手方とならなければならないのです。


Xの解答



例題の解答

例題1
答えは5です。

1が今回の自業自得の問題です。

2のEは実質的所有者でないので物権的請求権の相手方とはなりません。

間違っているのは5ですが、この所有権留保の判例は覚えておくべきです(最判平21.3.10)。

所有権留保といえば、ローンを組んでクルマを買ったことを思い浮かべてください。この場合、ローン完済まではディーラー名義となり、ローンを返せなければディーラーにクルマを召し上げられます。

この所有権留保で、クルマが誰かの土地に停められて所有権侵害をしている。ディーラーは責任があるでしょうか?

この場合、ディーラーに責任が発生するのは、被担保債権の弁済期到来の後(ローンを返済できなくなった後)というのが判例です。